2013年度 理事長所信

はじめに


第50代理事長
栗原 智久

 社団法人伊勢崎青年会議所に入会して間も無い頃に、ある先輩から「JCは社会人にとっての学校である」と言われました。当時の私はその意味が分かっていなかった様に思います。ただ、今になってその言葉は、私にとってのJCを表す最適の言葉であります。

 入会前、社会経験が未熟なまま現在の会社に入社しました。入社した当初は、右も左も分からず、その当時の上司の真似事ばかりしていた様に記憶しています。しかしながらJC運動を通して、組織の在り方、会議の進め方、社会人としての人との接し方等、経験から様々な事柄を学びました。そして何よりも素晴らしい人々と出会い、友情を育み切磋琢磨する事が出来ました。そんな地域貢献をする事はもとより、学び舎でもある公益社団法人(以下、(公社)とする)伊勢崎青年会議所の第50代理事長を務められる事に感謝しとても光栄に思うと共に、身の引き締まる思いで所信を述べさせて頂きます。

今ある問題とその取り組み

 現在の日本は、政治的、経済的、社会的な面でとても混沌としている様に見えます。安定しない政局、経済低迷とその空洞化、外交問題、高齢化社会、増え続ける税金と社会保障負担、低い投票率、凶悪犯罪、いじめ等、不安要素ばかりが目立ちます。ただ、日本の国民ほど恵まれた国民は世界中でも少ないのは事実です。最近“格差社会”と言われておりますが、他国と比較しても日本ほど差が少なく平等な国は少ないですし、日本では安心して殆どの国民が病院に行く事が出来ます。治安も良いですし、兵役もありません。GDPは順位を一つ落として世界第3位ですが、第2位の中国との差はまだわずかです。それでは何故これだけ安定している基礎があるにも拘わらず、私達市民は将来に対して必要以上に不安に思うのでしょうか。

 その大きな一因として、私達の大半が現在の高度情報化社会に対応しきれていないからだと私は思います。今の私達は、インターネットを通して革命を起こす事も出来れば、世界中の人々とボーダレスに交流する事も出来ます。しかし一方で、情報に対して受け身である傾向が強く、マスメディアの流す大量の情報を自分なりに分析出来ず鵜呑みにしてしまい、右往左往してしまっているのではないでしょうか。情報が大量にしかも急激に流れている中で、私達自身がしっかりとした意思と将来の展望を持たずに、刹那的にその場の雰囲気で物事を判断し、ただ反射的に反応しているだけの様な気がします。そして受け取ったままの情報を、まるで自分の意見の様に発信してしまう傾向にあるようにも思います。もし、そういった目先の事しか考えられない様な環境に居るとしたら、明るい未来など想い描く事も難しいと思います。

 であるとしたら、我々JCメンバーが出来る事は、明るい未来像を地域に発信し、共有する事ではないかと思います。不安ばかり抱えているより、こうなったら良いなと思える未来像を描き、能動的に目的を持って行動する事こそが、今日本に立ちはだかる不安という大きな壁を打ち砕く原動力になるのではないでしょうか。だからと言って、ハードルを高く考える事はありません。もっと簡単に、考え方を変える事から始めても良いのではないかと思います。以前私は、我が国の内閣総理大臣が短期間で替わってしまう事を異常に思うとある外国人に言われた事があります。正に私もそう思いますし、この経験から、私は我々国民が何事に対しても、駄目だったら直ぐに切り捨てるのでは無く、将来を思い描き、我々の力で方向修正をさせ、皆で育むといった意識の変化が必要だと思います。それが出来れば、たとえ不安要素が我々の前に立ちはだかったとしても、自ずと突破口が見つけられるのではないでしょうか。本年度はそのきっかけを作る年にしたいと考えております。

創立50周年を迎えるにあたって

 本年度、(公社)伊勢崎青年会議所は創立50周年を迎えます。1963年11月に創立して以来、半世紀もの間、試行錯誤しながら地域の明るい豊かな社会を実現させるべく運動して参りました。敗戦からの復興、そして高度経済成長期から安定成長期へ移行し、その後のバブル崩壊による失われた20年と呼ばれる現在に至るまで、各地のJCはその時代毎に誰よりも早く問題提起し、先見性を持った事業を展開して参りました。我々(公社)伊勢崎青年会議所も同様です。その過程では、かつてのメンバーである諸先輩方が、時には笑ったり、時には泣いたりしながら一つ一つ実績を50年積み上げて来られました。我々現役メンバーはそういった歴史や伝統を受け継ぎ、本年度は更なる未来へ大きく一歩を踏み出す飛躍の年に出来るよう自らを鼓舞すると共に、育てて頂いた地域の皆様に感謝を表す意味で記念事業、記念式典を開催致します。その中では過去50年を振り返ると共に、これからの未来についても触れて行きたいと考えております。

公益法人格の継続

 2012年に我々は公益法人格を取得し、(公社)伊勢崎青年会議所に生まれ変わりました。2008年に公益法人制度改革関連3法案が施行されて以来、我々はこの問題に取り組み、2010年9月総会にて公益法人格の取得を目指す事を決議しました。そして、2012年12月3日に移行出来た事は大変嬉しく思います。それと同時に、この法人格を継続させるには、新たな定款や規程に順応し、更に新たな会計基準にも対応しなければならず、今後もその維持に、真摯に取り組んで行かなくてはなりません。

 それでは、公益法人格を取得した意味とは何でしょうか。それは、行政庁である県又は国から、団体として資金面で健全であると同時に、市民運動団体でありながら公共の福祉を担うに足りる信頼のある団体だと判断されたという事です。これは、我々若い青年経済人で構成される団体にとって、大変意味のある事です。JCを良く知らない市民の方にも、我々若者が自分本位な事業をする団体ではなく、公益認定等ガイドラインに沿った形で事業を行うしっかりとした団体である事を認知して頂くきっかけとなり得るのです。

 各地のJCの中には、公益法人格ではなく一般法人格を取得するところもあります。その理由は様々ですが、大きく分ければ、運用資金の問題と、その公益認定等ガイドラインに従う為、事業内容に制限が設けられてしまう為です。もちろん公益社団法人と一般社団法人に優劣はありませんが、それだけ公益法人格を取得し継続させる事は、簡単な事ではありません。

 結果的に、取得迄の長く困難を極める過程を乗り越えた事は、我々に大きな自信を与えました。そして、そこで得た自信を胸に、我々は公益法人格を継続させ、より地域の住民に信頼される団体であり続ける土台を更に強固なものにしてゆくべきだと考えます。そういった展望を持ちつつ、先ず本年度としては、公益法人格を継続させる為の基礎作りを行いたいと思います。

会員拡大と会員としての資質向上

 我々(公社)伊勢崎青年会議所は、この数年慢性的な会員不足状態で会員拡大は最優先事項の一つであります。今迄も当然努力してきました。例えば、新たに伊勢崎市になった境、東、赤堀の地域や、女性、そしてこれまで在籍していなかった業種や職種の方々にも積極的に働き掛けをしてきました。そして今後も、それらを継続的に取り組んで行かなければならないと思います。

 それを踏まえて本年度は何をするべきなのかと考えた時、現役メンバーの会員としての資質向上が不可欠なのではないかと考えております。先ず、JCとはどの様な信念を持って運動し、何が出来る団体なのかをしっかりと自分なりに認識し、他人にもきちんと説明できる必要があると思います。JCという団体は、通り一遍に運動内容を説明しただけでは核心となる部分を理解されない様に思います。なぜなら大抵のメンバーは、各自の役割を体験する中で様々な事を学んで行く事が多いからです。そしてその役割毎に経験する事が違う為、JCで出来る事の可能性を見出す事が出来るのがその役割を務めたメンバーに限られてしまうのです。本年度はそういった可能性を最大限共有し、メンバー個々がJC運動をするにあたり、目標をしっかりと持てる環境づくりをしたいと考えております。

 我々メンバーがJC運動をする上で目標も無く漠然と行動していたら、誰がこの団体に入会したいと思うでしょうか。我々が活き活きと輝いている姿を見せる事によって、それに賛同してくれる品格のある青年経済人が集ってくれるのだと思います。数は力です。同志が多い程、我々の可能性は広がると思います。本年度は、これまでの取り組みも継続した上で、新たなアプローチで会員拡大をして行きたいと考えております。

地域の未来

 物質的に豊かになっている現在の伊勢崎で“まちづくり”とはどんな事をする必要があるのでしょうか。コンビニエンスストアは徒歩或いは車で数分の場所にありますし、道路網も充分に発達しております。しかも、県下第2位の工業が盛んな市であると共に、郊外にも拘らず人口も増加傾向にある稀な地域であります。しかし、暮らしやすさや幸福度等の精神的な部分では地域住民はどの様に感じているでしょうか。街全体の活気や安心感は、物質的に恵まれている事だけによってもたらされるものではないと思います。では他に何によってなのかといえば、やはり街それ自体の風土とそこに住む人々だと思います。

 (公社)伊勢崎青年会議所は創立以来、明るい豊かな社会の実現を目的とし、まちづくりこそが目的達成の為の重要な鍵として、永きに亘り事業を展開し地域の為に尽力してきました。その最たるものが毎年恒例のいせさきまつりを活気づけるおまつり広場の設営だと思います。その設営をする我々に寄せられる期待は、今や、大変大きくなっております。そして公益社団法人伊勢崎青年会議所運動指針の冒頭に「人づくりこそがまちづくりの礎」とある様に、我々メンバー自身も様々な事業の企画運営を通して、まちのオピニオンリーダーを育んできました。本年度も、今迄行って来た事業を継続すると共に、伊勢崎市の未来像を提案し、行動を起こせる人材を生み出すきっかけづくりを行いたいと考えております。

子供の未来

 子供の笑顔というのは、時代に関係なく光り輝いて映り、希望の象徴です。そして彼等の持っている将来への可能性というのは、計り知れません。しかしながら、益々陰湿になるいじめとその被害、そして青少年の凶悪犯罪増加等、大人の私達でさえ驚きを隠せない事件が発生しております。こういった子供達の世界に大人と同じ様な犯罪が発生するのは何故でしょうか。その理由の一つに、子供を取り巻く環境の変化が挙げられるではないかと私は考えます。子供の本質は今も昔も変わらないのに、私達大人の都合だけで、子供達を大人の世界に無理やり引き上げてしまっている様に感じます。人間は環境によって行動が変わります。特に感受性の豊かな子供は微妙な変化でも過敏に反応します。そしてその環境の変化が子供に及ぼす影響によって、その行動に違いが生じます。私が子供の時に無かった携帯電話を例に挙げてみても、小学生の子供達の間ですら普及している現在の事を考えれば、今日の子供達が受ける心理的負担は想像に難くありません。ただこれだけ世の中が複雑化し、家庭や学校の環境も様々な中で、必ずしもその解決方法は一つではありません。

 本年度、我々(公社)伊勢崎青年会議所として出来る事は、子供達に夢を持つきっかけを作る事だと考えます。我々大人は子供達に充分な将来への希望を与えているでしょうか。子供達に明るい未来像を描かせてあげられる機会を与えているでしょうか。私は、健全で建設的な夢や目標を持った子供が、いじめをしたり犯罪に手を染めたり、自信を持っている子供が簡単にいじめに屈する事はないと思います。何か将来について不安に思ったり見失ったりした時に、自分より弱い者や自分と違っている者を拒絶して傷つけてしまったり、或いは困難に立ち向かう事が出来なくなってしまうのだと思います。子供達の心はもろく壊れやすいものです。そういった子供達の心を守り強くする為、私達大人が子供達に未来の可能性を与える事が必要であると考えます。

結びに

 今の先行きの見え難い時代にJC運動をしている事に疑問を持たれる方も少なくないと思いますが、この市民運動は誰かがやり続けないといけない運動だと思います。行政に頼る事ばかりを考え、私達市民が自ら動かなくなってしまったら、その地域がより良くなる事はないでしょう。私は、全ては巡り巡ってくるものなのだと思います。今、私達が出来る事は些細な事かも知れないですが、積もり積もって、未来の伊勢崎に有益な形で還って来ると考えます。今の運動をやめてしまったらそこで終わりです。こんな時代だからこそ、誰かが運動し続けなければならないのです。そして幸いな事に、我々には50年積み重ねてきた伝統も歴史も実績もネットワークもあり、20歳から40歳までの青年経済人で構成されている為に行動力も持続力もあります。本年度の理事長として、私一人が出来る事は微々たるものかも知れません。しかし、まちづくりに意欲的な品格のあるメンバーが集まり団結すればそれは大きな原動力となり、志を同じくする未来の青年経済人が我々の意志を引き継いで更に大きな力で地域貢献してくれると信じております。

 最後になりますが、 (公社)伊勢崎青年会議所第50代理事長として誠心誠意役職を全うする所存ですので、何卒、メンバー並びに地域の皆様の御協力、御指導、御鞭撻を頂きます様御願い申し上げ、私の所信とさせて頂きます。